ヴィジュアルシンキングストラテジーズを実践してリーダーシップをつける

先の記事にて医学部生の観察力を高めるためにヴィジュアルシンキングストラテジーズ(以下、VTS)を実践していることを紹介しました。

VTSを実践することは対話型鑑賞を通じて観察力を養うだけでなく、他の見方を対話を通じて知ることができるというメリットがあります。そのメリットのお陰で自分一人では気付かない部分まで見る経験が観察力を高めることに効果的だと考えられています。

このように観察力を高めることに効果的であるVTSですが、観察力を高める以外にも色々な効果があるのではと言われています。

その一つはリーダーシップを高めることです。

この記事ではVTSを実践することでどのような観点からリーダーシップを育てることにつながるかについてご紹介したいと思います。

目次

リーダーシップにおける対話力

複雑さ、不確実性、視点の多様性を乗り越える能力はリーダーシップの重要な能力の一つになっています。

このように一つでは到底処理できないあらゆる事由が起こりうる時代において前時代的なカリスマ的なリーダーシップよりもフォロワーとの良好な関係性を構築できるリーダーシップが求められています。

では、良好な関係性を構築するためのリーダーシップとはどのようなものでしょうか。

フォロワーとの良好な関係性を構築していくためには人よりも勝る知識を伝えることよりもフォロワーに的確に物事を伝えること、また、フォロワーからの情報を適切に読み取ることが必要になると考えられます。

したがって、自分の正しさを強権的に伝える能力ではなく、相手が分かる言葉を選び語り、また、相手からも必要な情報を聞き取る力が良好な関係性を構築するためのリーダーシップであると考えます。

では、VTSを通じてどのようにこのような能力を養うことができるかについて説明したいと思います。

VTSで養うリーダーシップに必要な対話力

VTSを実践することで2つの対話力を育てることができると考えています。

1つ目は言語を構成する力です。

VTSではアート作品を鑑賞し自らが発言する際に周りに対してアート作品の説明を行うことをします。

自らが見えたことを周りに説明することは簡単そうで難しいことだと思います。

言葉の順序や単語の選び方で周りが感じる理解も変わってきますし、自分が伝えたい事を周りに伝えることは多く話せば伝わることでもないことに気づくのではないでしょうか。

また、ファシリテーターにより「どこからそのように考えましたか」とより発言の真意を問われます。

このような問いかけにより自分の発言の背景を説明する機会を与えられることはより詳しい説明で自らの発言を補足する能力が育てられると考えられます。

言語を構成する力はリーダーがフォロワーに対して自らの考えを適切に伝えるうえで重要な力になると思います。

VTSでアート作品を説明することを繰り返すことによってこのような力が磨かれていくのではないでしょうか。

2つ目に養うことができる力はあらゆる発言を客観的受け止める力です。

VTSでファシリテーターを経験すると目の前にあるアート作品が人によって全然違う見え方をしていることに気づくことがあります。

ファシリテーターは決められた3つの発言を通して参加者の発言を受け止めていくのですが、その際に出た発言をより分かりやすく繰り返し説明することも実践します。

誰かが発言した内容を自分の主観を入れずにもう一度、客観的に説明することは発言の内容を正確に聞き取れていないとできませんし、また、そもそも客観的に話を聞けていなければ話をまとめて繰り返すこともできません。

このようにファシリテーターとしての役割をしっかりとこなせるようになると必然的にあらゆる発言を客観的に受け止めることができるようになります。

リーダーがフォロワーの話を聞く際にはなるべく自らの主観を取り除いて話を聞くことが求められます。なぜなら、もし、主観的に話を聞いてしまうと自分にとって都合の良いことだけが頭の中に残ってしまうため本当の意味で話を聞いたことにならないからです。

次にこのようなリーダーシップを養うために特別に開発されたVTSプログラムについて照会します。

カンザス州立大学の事例

カンザス州立大学ではリーダーシップ育成のためのプログラムを開発しています。

具体的には科学、テクノロジー、エンジニアリング、数学 (STEM) を専攻している学生に対してリーダーシップを身につけるためのプログラムを実践しています。

さて、実際にどのような形式でVTSを実践しているかというと彼らは実際のアート作品ではなく、Center for Creative Leadershipが製作したVisual Explorer®というカードを利用してVTSを実践しました。

このような事例からも分かるように小人数でVTSを実践する場合はポストカードを利用することも可能かと思います。

こちらのプログラムではリーダーシップを養成するためにファシリテーターの役割に重きを置いたVTSを実践しています。実際にファシリテーターは次のような流れで対話を促進していきます。

  1. ファシリテーターが厳選した作品を提示します。理想的なイメージには、特定の生徒の年齢や背景を考慮した強力な物語と理解可能な意味が含まれている必要があります。
  2. ファシリテーターは、しばらく作品を静かに見るように依頼してプロセスを開始します。
  3. 「この絵の中で何が起こっている/起こっているのですか?」などの意味を作る質問をすることで、ファシリテーターは参加者に解釈的なコメントをするよう促します。次に、ファシリテーターは視覚的な証拠を示しながら、すべてのコメントを言い換えます。
  4. ファシリテーターは、「何を見てそう言えるのですか?」と尋ねることで、生徒に具体的な方法で視覚的な証拠を提供するよう促し、会話の焦点をその主題に集中させます。
  5. コメントをリンクし、中立を保つことで、ファシリテーターは生徒の考え間のつながりを構築し、生徒が独自のつながりを作るよう促します。
  6. ファシリテーターは「これ以上何が見つかるでしょうか?」と尋ねます。常にもっと見つかるものがあるという考えを奨励し続けるために。
  7. 最後にファシリテーターはグループの参加に謝意を示します

このようにより主体的に対話を促す方法はファシリテーターに対して対話を促すためのスキルを身につけさせるためには効果的だと考えられます。ただし、ファシリテーターは中立であることに徹すことが大切な心構えになります。

実際の参加者に対して行われたアンケートによると観察スキルの向上と積極的な傾聴が体験できたことや自分とは異なる意見を聞くことにより不確実性と曖昧さに慣れることができたという感想もありました。また、複数の視点と多様な解釈を認識することができたという感想もあり、参加を通じてより客観的に周りの話を聞けるようになるといったことも分かりました。

そして、ファシリテーターを経験した参加者からは、すべての発言を自分の価値基準で判断せずに言い換えたりリンクしたりすることは、深い意味の形成と対話、そして最終的には相互理解にとって非常に重要であったという感想がありました。

また、参加者の発言は自らの過去の経験やアイデンティティに関連付けられる傾向があるため、ファシリテーターと参加者の間に深い理解をし合うことができるといった副次的な効果もあるという意見もありました。

まとめ

この記事ではVTSがどのようなリーダーシップに必要な能力を育成することにつながるかについて考察してみました。

医学部生教育のVTSでも観察力を磨くこと以外にもチームを前に進めていくリーダーシップを身につけることができるかもしれません。

また、学生だけでなく企業の管理職の研修などでVTSを取り入れることで新しいリーダーシップの能力を開発することができる可能性があります。

もう少し理論的な背景を理解しながらVTSの可能性を模索してみたいと思います。

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