ミュージアムの定義について考える

ミュージアムの役割は多くの人にとっては展覧会を通して珍しいものや美しいものや好奇心を満たすものを目にする機会を提供してくれるところという認識がされているかと思います。

今回の記事ではそんなミュージアムの定義についてご紹介したいと思います。

目次

ICOMのミュージアムの定義

今回の記事でご紹介するのは現在のICOMにおけるミュージアムの定義です。

一般的にはあまり知られていないとは思いますがミュージアムの世界では全世界で話し合うことができる集まりがあります。

その集まりの名称はInternational Council of Museums(通称:ICOM)と呼ばれています。

ICOMでは全世界で話すべきミュージアムのことについて4年に一度、全世界大会を開催しています。

また、分科会も設けられていてミュージアムに関する様々な分野別に継続的な対話を続けています。

このICOMでは全世界のミュージアム関係者が集まり、ミュージアムの定義を定めています。

“博物館は、有形及び無形の遺産を研究、収集、保存、解釈、展示する、社会のための非営利の常設機関である。博物館は一般に公開され、誰もが利用でき、包摂的であって、多様性と持続可能性を育む。倫理的かつ専門性をもってコミュニケーションを図り、コミュニティの参加とともに博物館は活動し、教育、愉しみ、省察と知識共有のための様々な経験を提供する。”

こちらの定義は2022年8月にチェコのプラハで開催されたICOM世界大会にて、新たな定義案が採決され、その英語を日本語訳したものです。

こちらの定義から分かることについていくつか説明したいと思います。

定義を詳しく見ていく

まず、「非営利」とあるので「営利」ではない価値基準をミュージアムは持っているということです。

現在、日本にあるミュージアムは収益性を高めることを求められています。

収益性を高めることはミュージアムにとって重要な課題ではありますが、それ以上に重要なミッションがあるから「非営利」であるということが定義されています。

その重要なミッションはミュージアムごとに異なりますが、儲けるためではない目的を持ってあらゆる取り組みを行うことが求められていることがこの「非営利」という言葉からわかると思います。

また、「多様性と持続可能性を育む」という点も注目すべきところかと思います。

ミュージアムにとっての多様性とは現在盛んに言われているSDGsとも少し違う意味合いがあります。

違う意味とはミュージアムの価値観の多様性という意味です。

実はミュージアムは近代においてヨーロッパの西洋社会の文脈で語られてきた歴史があります。

その過程でどうしても植民地支配という歴史の価値観が前提となったミュージアムの歴史もあります。

現代になり、脱植民地化というキーワードとともにミュージアムでも西洋が作ってきた価値観とは別の見方をすることが多くなってきました。

そのような流れもあり、ミュージアムの価値観の多様性が謳われている可能性があります。

また、持続可能性も重要なミュージアムの考え方です。

ミュージアムは基本的に収集された有形コレクションは処分しません。

したがって、現在のミュージアムではコレクションの保管する場所がなくなってきているという課題があります。

このような課題はミュージアムが未来にも存在していくという持続可能な運営をしていくうえでも解決していきたい課題の一つになっています。

最後に「コミュニティの参加とともに博物館は活動し、教育、愉しみ、省察と知識共有のための様々な経験を提供する」という文章について詳しく見ていきます。

ミュージアムは近年になるまで収集に役割の重きを置いていました。

その結果、収集したものを展示するという流れがあり、展示とは、その過程である調査・研究を発表する場という位置づけがされてきました。

しかし、最近になりある程度コレクションが集まってきた状況になるとこれまでとは違い、ミュージアムが社会の中でどのようにあるべきかという議論がされるようになってきました。

そのミュージアムの役割を表したのが「教育、愉しみ、省察と知識共有のための様々な経験を提供する」という言葉かと思います。

教育目的だけでなく、愉しみや省察といった言葉を使っていることから学習以上の価値を提供できる場所としてのミュージアムが世界的に求められているとも考えられます。

このような学習以上の価値を提供するためにこれまで内向きであったミュージアムも社会との繋がりを持って外に向いた取り組みが増えていくことでしょう。

まとめ

今回はICOMのミュージアムの定義について見てきました。

ミュージアムの定義は現在のミュージアムが置かれている立場を表しているところもあります。

ミュージアム単体で考えるのでなく、社会全体の一部としてミュージアムを捉えると新しい役割みたいなものが定義から感じ取ることができるのではないでしょうか。

普段、展覧会をやっている場所という限られた見え方ではなく、より良い社会の一員としてのミュージアムの役割をこれからも果たしていけるといいのではと思います。

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ミュゼオロジスト。
普段はミュージアムの中の人です。
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