精神疾患やうつ病といった症状は現代社会において世界中で大きな問題となっています。
もし、このような症状を持つ患者がミュージアムに行くことで症状が緩和できるのであればミュージアムが持つ社会的役割を拡張することにつながるかもしれません。
今回の記事ではすでにミュージアムに行くことを処方しているケースについてご紹介したいと思います。
ブリュッセルでは不安の治療のためにミュージアムを処方する
ベルギーの首都であるブリュッセルではうつ病などの精神疾患を抱える患者に対してミュージアムに行くことを処方することを実験的に始めています。
この取り組みは2022年9月から始まっており、処方を受けた患者はブリュッセルにある1つ以上の文化施設を見学するために数人の友人や家族とともに無料で訪問することができるようになっています。
ブリュッセルの文化担当副市長デルフィーヌ・フーバ氏は、この企画の目的は医師に「治癒過程における新しいツール」を提供することだと語っている。
ブリュッセルでは、市当局の直接管理下にある5つの博物館が参加するパイロットプロジェクトが6か月間実施されてました。これらには、市の歴史博物館、現代美術センター、ファッションとレースの博物館が含まれていました。
この計画に参加しているブルグマン大学病院の精神科医ヨハン・ニューウェル医師は、「人々が良い気分になり、自分自身と向き合うのに役立つものであれば、どんなものでも治療的価値がある可能性がある」と語っています。
また、同氏は、博物館の処方箋がうつ病、不安症、自閉症スペクトラム障害、精神病、双極性障害に苦しむ人々に適していると期待しています。「ほぼ誰でもその恩恵を受けることができると思います」と彼は言っていて、「おそらく、重篤な病気の人よりも、すでに回復過程がもう少し進んでいる人に適しているだろう」と同氏は述べています。
ニューウェル氏によると、患者は訪問の前後に医師と話し合い、「その経験が自分にとってどうだったか、何が気に入ったか、何が気に入らなかったか」を確認している。
彼は社会と再びつながる機会であると同時に、日常の喧騒から離れて静かに熟考する機会でもあると考えています。
「私たちの社会はとても忙しく、ストレスと刺激に満ちています」と彼は言いました。
博物館の処方箋は人々に「ひととき落ち着く機会」を与える可能性を秘めています。
Museums on prescription: Brussels tests cultural visits to treat anxiety
https://www.theguardian.com/world/2022/sep/17/museums-on-prescription-brussels-tests-cultural-visits-to-treat-anxiety
カナダのモントリオールの美術館の場合
カナダのモントリオールではブリュッセルに先駆けて医師が患者にミュージアムに行くことができる処方箋を出すことができる制度を実験的に取り入れています。
医師団体とモントリオール美術館(MMFA)は提携し、医師が無料で美術館を訪れるための処方箋を書けるようにしました。
モントリオール美術館によると、患者はコレクションを閲覧することで「リラックスして活力を取り戻し、ひとときの休息」を得ることができるという。
プロジェクトは 2018年11 月 1 日に開始されました。
カナダフランス語圏医師会の医師会員は、プロジェクトの初期段階で、より伝統的な治療選択肢を補完するものとして、MMFAのコレクションや展示会を訪れる際に最大50枚の処方箋を発行できるように登録します。
また、モントリオール美術館では芸術の経験と総合的な治療アプローチを組み合わせた新しい治療手段を創出しました。
美術館業界初となる常勤のアートセラピストを含む教育・ウェルネス部門チームの専門知識のサポートを受け、医師、大学研究者、病院専門家と協力して 現場で開発されたプログラムを確立しています。
Montreal museum partners with doctors to ‘prescribe’ art
https://www.bbc.com/news/world-us-canada-45972348
まとめ
以上のような取り組みが実験的ではありますがミュージアムと医療機関のコラボレーションとして各国で進んでいます。
まだ実験的な取り組みであるため具体的な成果を示す情報は出てきていませんが、このような取り組みが増えることによりその効果測定もできてくるかと思われます。
日本においては処方をするということは医療保険の適用をするということになりますので十分なイビデンスを揃うことが重要になってくるかと思われます。
まずはミュージアムという場所が作品を鑑賞するだけでなく、精神の不安を和らげることができるという可能性について皆様に知っていただけたら幸いです。
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