美術館と博物館の違いを考える(目的の違い編)

皆さん、美術館と博物館の違いはご存じでしょうか。

どちらの施設ともに展覧会を実施していることから訪れる方にとってはさほどの違いが感じられないかと思われます。

しいて違いを挙げるとすれば博物館が古いものを扱っていて、美術館が最近のものを扱っているという印象を与えているのではと考えられます。

今回の記事ではもう少し両者の違いについて私なりに考察を加えてみたいと思います。

目次

博物館の名付け親は福沢諭吉だった

博物館と美術館の違いを考える前にそもそも博物館という言葉がいつどのように世の中に広まったかについてご紹介したいと思います。

諸説はあると思いますがミュージアムという西洋の言葉を「博物館」という言葉で世の中に広く紹介した最初は福沢諭吉だったとされています。

彼は遣欧使節団に同行し、帰国してからこの時の見聞録として「西洋事情」という本を1866年に出版しました。その中でミュージアムを紹介する文章で「博物館ハ世界中ノ物産、古物、珍品ヲ集メテ人ニ示シ、見物ヲ博スル為(ため)ニ設ルモノナリ」と記しました。翻訳として「博物館」という言葉が使われていて、これによって博物館という言葉が一般的になったのではと考えられています。

ちなみに日本大百科全書(ニッポニカ)によると、

 1860年(万延1)に、日米修好通商条約の批准書交換のためにアメリカに渡った施設団が、アメリカで博物館を見学し、その際の記録をいろいろな人が残しているが、そのなかには「百物館」「我国の医学館の類」「博物所」「奇品はた究理の館」など、さまざまな名称で博物館を紹介しようとしている。

とされています。


「博物館」の意味・わかりやすい解説

https://kotobank.jp/word/%E5%8D%9A%E7%89%A9%E9%A4%A8-113844

色々な人がどのように表現していいのかを自分なりに考えていて、その中で福沢諭吉の出版が広く多くの人に伝わった結果、今日「博物館」という言葉を使われているということになるでしょうか。

いつの時代も変わらず多くの人に自分の考えを知ってもらえるような発信力がある人がすごいと思います。

前置きは長くなりましたが次に本題である博物館と美術館の違いについて私なりの考察をしたいと思います。

今回、博物館と美術館の違いを考察するにあたり文化庁が何かしらの書類として公開している「国立博物館、国立美術館、国立科学博物館の違い」という書類を参考にしたいと思います。この資料では科学博物館の違いについても紹介されていますが今回は博物館と美術館に絞って考察したいと思います。

博物館と美術館のミッション(目的)の違い

まず、ミッションの違いから説明したいと思います。ミッションとはその施設が活動する目的というようなものです。ミュージアムのような非営利組織では営利組織と違って営利の追求の最大化を目的とはしません。

その代わりにそれぞれの組織で必要と考えられる目的を考え、その目的が達成できるように日々活動していきます。

さて、このような目的について博物館と美術館ではどのような違いがあるとされているでしょうか。

資料によると博物館は「文化財の保存、活用」とあり、美術館は「芸術文化の創造と発展」とあります。次にそれぞれの目的についてもう少し詳しく見てみましょう。

博物館の目的である「文化財の保存、活用」はまず保存という言葉が最初に記されている通り展示を行うことよりも未来に文化財を伝えるためにしっかりと保存することに重きが置かれていることが分かります。

一方、美術館の目的は「芸術文化の創造と発展」とあるように新しいことを生み出すことに積極的であることが分かります。創造と発展という言葉からも分かるように芸術文化が花開くためにできる新しい取り組みに対して前向きになります。

このように博物館と美術館の目的を比較すると真逆の価値観を持っていることが分かるかと思います。具体的には博物館では貴重な文化財を未来に伝えるために保存することが最重要課題になるため「守り」の意識が強くなること、その一方で美術館は芸術文化がより発展するために「攻め」の意識が強くなるということです。

このような意識の違いはミュージアムの取り組み内容でどこに重きを置くかを判断する際に重要になってきます。

具体的には博物館では文化財の保存するために必要な収蔵庫の管理や展示室における虫害対策の取り組みに対する意識が高くなるように感じます。

また、美術館では芸術文化が発展するために教育普及やアウトリーチといった多くの人に芸術文化に親しんでもらえるような取り組みを多く実践しているように思います。

このような違いがある博物館と美術館の目的ですが設置主体が地方公共団体や私設になっている場合、設置者の意向が入るため必ずしも先述したような博物館、美術館だからこうといった目的になっていないケースもあります。

ただ、博物館と美術館の役割の違いを考えるうえで文化庁が作成した資料は一つの視点を提供してくれている気がします。

普段の足を運んでいる博物館や美術館の取り組みの背景にある目的について考えてみるとミュージアムをより深く楽しむことができるのではないでしょうか。

またの機会に博物館と美術館の他の違いについても考察したいと思います。

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この記事を書いた人

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ミュゼオロジスト。
普段はミュージアムの中の人です。
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