先の記事にて絵画鑑賞トレーニングで医学生の視覚診断スキルが上がる可能性があることを紹介しました。
また、その絵画鑑賞をした後にグループになり話し合うことにより自分とは異なる視点の意見を聞くことにより、実際見ていた絵画がより多様な見え方ができることの気づきを得ることもできます。
このようなトレーニングは画像を診断する際に活かすことができるのですが実際にどのようなトレーニング方法が考えられるのでしょうか。
この記事では具体的なトレーニング方法を1つの研究からご紹介したいと思います。
ハーバード大学歯学部の場合
2004 年から 2005 年にかけて、ハーバード大学医科歯科学校 (HMDS) の 1 年目または 2 年目のすべての前期臨床学生は、電子メールによる発表を通じて、「目の訓練: 芸術の改善」コースに登録するよう招待されました。
この研究は当初、検出力分析とサンプルサイズの推定に基づいて目の訓練を受ける介入グループに被験者24名、訓練を受けない対照グループに学生34名を入れるように設計されていました。
実際に56 人の学生がこのコースに興味を示し、そのうちの24 人の学生が無作為にコースに参加するように割り当てられ、32 人が無作為に対照群に割り当てられました。
介入グループの生徒 24 人全員と対照グループの生徒 32 人中 19 人が参加に同意しました。
コースの内容と授業の内容
「目のトレーニング:身体診断技術の向上」は、春学期の選択科目として学生に提供される 9 週間の前臨床コースです。
こちらのカリキュラムは8週の 2.5 時間の教育セッションで構成されていました。
教育セッションは、ボストン美術館 (MFA) での 75 分間の観察演習と、短い休憩の後、視覚芸術の概念と身体診断を結びつける 1 時間の講義に分かれました。
演習内容、対応する教育内容、鑑賞したアート作品の例は次の通りです。
例えば、「色、光、影」という演習内容の場合、対応する教育内容として「色と輝度」、そしてその題材としてポール・ゴーギャン「私たちはどこから来たのか?」私たちは何ですか?私達はどこに行くの?1897 ~ 1898 年、キャンバスに油彩が作品として選ばれました。
また、「形状」というテーマでの演習内容の場合、対応する教育内容として「肺病態生理学における形態と機能の結びつき」、その題材として菩薩坐像、中国、東魏時代、西暦 530 年頃、石灰岩に彫刻が選ばれている点が興味深いです。
観察演習は、批判的思考、コミュニケーションスキル、視覚リテラシーを開発するためにアートディスカッションを使用する方法論であるビジュアルシンキングストラテジーの訓練を受けた美術教育者によって運営されました。学生は最大 12 人のグループで、医学のテーマと結びついた芸術の概念を戦略的に実践するために事前に選択された芸術作品を観察し、口頭で説明し、その内容を解釈し、他の人の分析を積極的に傾聴し自分の中に落とし込みをする練習をしました。
実験結果
半期のコース終了後、クラス参加者はクラスに参加しなかった対象群と比較して平均観察数が増加しました(5.41 ± 0.63 vs 0.36 ± 0.53、p < 0.0001)。
クラス参加者は芸術的および臨床的イメージを説明する力はより洗練されました。
7 回以下のセッションに参加した参加者と比較して、8 回以上のセッションに参加した参加者ではその平均変化スコアがより大きく増加しました。
Formal Art Observation Training Improves Medical Students’ Visual Diagnostic Skills
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2517949/
まとめ
以上のような結果よりアート作品を使った視覚トレーニングには一定の効果がある可能性が分かります。
ただ、研究対象の規模の少なさはまだこの研究分野の課題であることがわかります。
個人的には医師が求められる画像診断とアート作品の特徴を上手く組み合わせることにより授業の内容がより良いものになると思われました。
もう少しこの分野の先行研究を調査してみたいと思います。
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