ミュージアムで過ごすことで人が感じる不安の軽減につながる話

ミュージアムで作品鑑賞をするということは素敵な作品に出会い知的好奇心を満たすだけでなく、私達の心の不安や血圧を下げて落ち着かせてくれる効果が確認されています。

この記事ではミュージアムで鑑賞することが体にどのようにプラスに働くことがあるのかについてご紹介したいと思います。

目次

ミュージアムに1時間滞在するとストレスが減る

Guildhall Art Gallery

最初にご紹介したい事例がロンドンのギルドホール・アート・ギャラリーで行われた実験です。

具体的にどのような研究がされたかというと、調査はロンドンで働く社会人に対して行われました。まず、彼らに昼休みに無料で美術館でアート鑑賞ができる招待状を送りました。それを受け取った人たちが昼休みにミュージアムに訪れると、もちろん無料でアート鑑賞ができるのですが、その鑑賞をする前後に唾液を採取することに協力してもらいました。

なぜ唾液を採取したのかというと、その唾液の中に含まれているコルチゾールというホルモンの量を測定するためです。 コルチゾールを簡単に説明すると、人がストレスを受けたときに脳から刺激を受けて唾液中の含まれる分泌量が増えるホルモンであり、「ストレスホルモン」とも呼ばれていたりもします。

したがって、この実験は美術館でアート鑑賞した人たちのその鑑賞前後でコルチゾールの値がどのように変化するのかを目的として行われました。

実験結果は、コルチゾールの値は美術館でのアート鑑賞後に下がったことが確認されました。要は、アート鑑賞が鑑賞者のストレス軽減につながったということです。また、どのくらいの効果があったのかというと、アート鑑賞に1時間費やしたのですが、何もストレスがないような普段の生活をしているときには5時間かかるくらいの低下量が測定されたと説明されています。

皆様もアート鑑賞をして癒されるなあと感じられる方もいると思いますが、心だけでなく、実際に体にも変化が起きている可能性を考えるうえでは面白い実験結果ではないかと思います。

Normalisation of salivary cortisol levels and self-report stress by a brief lunchtime visit to an art gallery by London City workers

https://westminsterresearch.westminster.ac.uk/item/924vz/normalisation-of-salivary-cortisol-levels-and-self-report-stress-by-a-brief-lunchtime-visit-to-an-art-gallery-by-london-city-workers

風景画を見ると血圧が下がる

次にご紹介する事例はローマある国立近代美術館で行われた実験です。こちらの実験では美術館で絵画を鑑賞することで血圧にどのような影響があるのかについて調査されました。

実験では比較検討できるように3つのグループに分けて各グループが美術館にて鑑賞する前後の血圧を測定しました。

3つのグループは次の通りです。1つ目のグループは現代アートのみを鑑賞するグループ、2つ目のグループは風景画などを描いたフィギュラティブアート(具象芸術)のみを鑑賞するグループ、3つ目は何も鑑賞せずにミュージアムに滞在するグループです。

参加者の拡張期血圧(心臓が拍動の間に休んでいるときの動脈内の圧力)は、高血圧に罹患していない人々で予想されるように、非常に安定していました。

したがって、収縮期血圧の変動のみを考慮したところ、具象芸術に触れた参加者の大多数は、現代美術や美術館のオフィスに触れた参加者と比較して、収縮期血圧を有意に低下させました。3 つのグループの訪問前後の心拍数に違いは見つかりませんでした。

具象芸術の訪問中に、参加者の収縮期血圧(心臓が鼓動するときの動脈内の圧力)が低下したことは、ストレスは血圧を上昇させることが知られているため、これはストレスが軽減されたことを示すものと考えられます。

また、心拍数や拡張期血圧(心臓が拍動の間に休んでいるときの動脈内の圧力)には変化はありませんでした。被験者が両方の種類の芸術(具象芸術と現代芸術)の類似性を好んだのは興味深いことでしたが、収縮期血圧を低下させたのは具象芸術だけでした。

Visits to figurative art museums may lower blood pressure and stress

https://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1080/17533015.2018.1443953?journalCode=rahe20

まとめ

ミュージアムに訪れるということは心を落ち着かせたり、感じているストレスを和らげたりと知的興奮を感じる以外にも癒しの効果がありそうです。

注意したい点は対象となるアート作品がどのようなものなのかです。

2つ目の研究からも分かるように現代アートと具象美術では後者には血圧を下げる効果がみられました。したがって、癒しを提供してくれるジャンルの作品のあるミュージアムかどうかも大切な視点だと思われます。

最近、ストレスが溜まっているなと感じられる方はミュージアム浴をするくらいの気軽さでミュージアムにぜひ訪れてみてください。

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この記事を書いた人

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ミュゼオロジスト。
普段はミュージアムの中の人です。
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